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「サンマ不漁」報道が大げさになりがちな理由、本当の要因とは

 

 秋も深まり、サンマがおいしい季節となりました。近年、課題となっていたサンマの不漁。今年もその傾向がありましたが、10月に入って取れだしてきているという話も出てきています。また実は今、海洋環境には大きな変化が起こっているといいます。海の環境はどうなっているのでしょうか。東京海洋大学で非常勤講師も務める、おさかなコーディネータのながさき一生さんが、研究機関などに取材を行いレポートします。

● サンマ不漁報道が 「大げさ」になってしまうワケ

 近年続いていたサンマの不漁。今年に入ってからは、過去にないまでの不漁であるという報道が続いていました。しかし、10月に入り状況が一転。北海道や三陸の漁港では、サンマの水揚げで活気づく様子が報じられています。「あのサンマ不漁報道は何だったのだろうか」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

 ここ何年か、サンマ不漁のニュースがシーズン当初に出るたびに、「サンマは取りすぎだ」「サンマがいなくなる」などと騒ぎ立てられる状況が続いています。これに対し、「もっと冷静に状況を見つめた方が良い」ということを最初にお伝えしたいと思います。

 まず、サンマの資源量が減っているのは事実ですが、注意して見ておきたいのは、シーズンを通しての漁獲量です。シーズン当初の不漁については近年、環境の変化により、取れる時期が遅れる傾向にあることを念頭に置く必要があります。

 特に、シーズン当初は初セリなどが話題になりやすく、情報が大々的に伝わります。この頃にサンマの来遊が遅れて壊滅的な不漁となると、資源量が減っている情報と結びついて、「サンマがまったくいなくなった」という錯覚が起きてしまうのです。

 サンマの資源量が減っているのは事実で深刻な状況ではありますが、シーズン当初の伝え方は、事態に輪をかけてさらに大げさに聞こえてしまいがちです。

 この点をまずは念頭に置き、ここからはサンマが遅れて来遊する話と、サンマの資源量が減っている話とを分けて述べていきたいと思います。

● なぜサンマの来遊が いつもより遅くなっているのか

 まず、サンマの来遊する時期に関してですが、10月に入り日本近海にサンマがまとまって来遊してきている状況がうかがえます。

 全国さんま棒受網漁業協同組合に問い合わせると、「9月末まではサンマがほぼいない状況だったのが、10月になってから魚群がまとまって確認されるようになり、10月10日の時点でまとまった水揚げが予定されています」とのことでした。各地での水揚げが一斉に報じられたのは、ちょうどこのタイミングです。

 では、どうしてサンマは例年よりも遅れて来遊してきたのでしょうか。それには、今年の海洋環境の変化が関係しているようです。

 海洋環境のモニタリングシステムを運用するオーシャンアイズの田中裕介社長は、「今年は、特に4月~5月に異常なまでに海水温が高く、黒潮が蛇行するなど、例年とは異なる状況が続いていました。ただ、10月になってサンマの漁場となる海域の海水温が平年並みになって来ています」と、今年ならではの特徴を指摘します。

 サンマは、海水温が下がってこないと漁場が形成されにくい特性があります。ゆえに、そのような環境が整ってくれば、まとまった漁獲も期待できます。海水温が平年並みまで下がってきた海の環境と照らし合わせると、この10月のタイミングでサンマが取れるようになったこととつじつまが合います。

 このように、サンマが来遊する環境が整った今後は、冬までかけてある程度取れるものと期待されています。

● サンマの資源量減少と その要因とは?

 一方で、全体的な漁獲量は少なかった昨年よりもさらに減ると予想されています。ここからは、サンマの資源量に関する話について述べていきます。

 まず、そもそも資源量はどのようにして測っているのでしょうか。これは、国立研究開発法人水産研究・教育機構(以下、水研機構)が中心となって資源調査を実施しており、サンマが回遊する海域で決められた経度ごとに網を曳き、その密度や個体の性質を調べることで算出がされています。

 今年は、コロナの影響でその調査が十分に実施できなかったため、例年と比べて不確実性が高いものになっているとしながらも、資源量は昨年よりも低下しており、「漁期を通じた来遊量は、昨年を下回る」という予報が出されています。

 それに加えて起きていることは、サンマが日本近海から遠ざかっているという現象です。

 実は、サンマの不漁は、1970年代や1980年代といった以前にもありました。「当時も近年と同様にサンマが日本近海から遠ざかる現象が起きていた」(水研機構研究員)とのことで、現在もまた似たような状況に陥っていることが想定できます。

 サンマの資源量低下の要因について、漁獲過剰や外国船による新たな漁獲圧を唱える方がいますが、資源量に対する漁獲の割合が多くないことや上記のような現象を考慮すると、環境の変化が大きな要因となっていることがうかがえます。

 ただ、水研機構の研究員も「はっきりとしたことは分からない」と言うように、水産資源増減の要因は複合的であり、複雑であることが多々です。

 「取るのをやめれば魚は増える」という人もいますが、そんな簡単な話ではありません。現に東日本大震災以降に休漁が続いていた福島沖においては、ヒラメやマダラなど増えた魚種があった一方、ズワイガニなど増えなかった魚種も存在します。

 しかしながら、サンマに関してはこうした資源量の低下や外国船がサンマ漁業に新たに参入したことで漁獲圧が増えていることもまた事実といえます。ここまでの資源減少を起こしている主要因が漁獲過剰でないにせよ、後戻りできないくらいの深刻な状況になるのを防ぐため、同じサンマ資源を漁獲する諸外国とも調整をし、今後の漁獲圧をコントロールしていくことは必要不可欠といえるでしょう。

● サンマに代わって増えている魚 自然の変化にどう対応するか

 サンマのように環境が変わって減る魚種もあれば、増える魚種もあります。水研機構によれば、近年、資源量が増えている魚種は、マイワシ、マサバ、ブリなどで、特にマイワシは、現在比較的漁獲可能な量に余裕があるとのことでした。

 マイワシはここ数年、数量だけでなく、脂のノリや味も良い状態にあります。価格も安く、栄養的にも動脈硬化を防ぐEPAを多く含むなど、本当に優れた魚といえます。サンマが引き続き取れない場合、その代替となり得るのは、マイワシといえるでしょう。現に、一部のサンマ加工メーカーが、マイワシへのシフトを始めているという話もあるようです。

 一方で、必ず上記のような傾向で変化が続くとは限らないのが自然界です。実は、10月に入り、サンマが取れるようになってきたこととは対象的に、マイワシは小ぶりなものが目立つようになってきたようです。

 水産資源は、このように大きくも小さくも、絶えず変化をするものです。

 私たち日本人は、昔から海に囲まれ、水産資源を利用するにあたり、この変化に対応してきました。これは例えば、イワシが増えればイワシを、サンマが増えればサンマを有効活用するということです。さまざまな魚を、いろいろな形で食べる豊かな食文化が育まれたのはその結果だと思います。

 今、水産資源の管理方法についてさまざまな議論がされていますが、利用する魚種が限られている欧米のやり方に少々追随しすぎていることを私は危惧しています。

 日々の食文化や日本の水産業を守っていくために最も大切なのは、自然の変化に対応することです。欧米のやり方も参考にしつつ、日本の状況に合った水産資源の管理方法を考えていくことが大切だと思います。

 サンマが減っている件に関しても同様です。その代替となる魚の一つはマイワシであるといえますが、それぞれの場やその時々で用いる魚は、常に臨機応変に考えていくことが必要でしょう。

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